■先進ボディのコンセプトカー

 まずZ1の復習から。BMWといえば超高性能セダンの雄としてレースでも勇名を馳せているが、形そのものからスポーツカーとして表現されたZ1は、逆にそういう“性能狙い”ではない。“乗って愉しい”というためにデザインされた車である。というより、なにもBMWはスポーツカーを作るためにZ1を作ったのではなく、1985年、企業としての先進性をアピールする目的から“創造的かつ進歩的で世間の注目を惹く車”を開発することになった時、たまたまその形として“伝統的なスポーツカーの雰囲気にひたれる車”を最新のテクノロジーを駆使して仕立てる”という結論が出たにすぎない。BMWグループの一員であるBMWテヒニク社が開発を受け持つことになったこの車、先進技術のアドバルーンでるからには大量生産にはなじまない、それなら普段はなかなか出来ない純スポーツカーを手がけようじゃないかというのが本当のところだろう。自動車を操る愉しみの表現として、オープン2シ−タ−というのはかなり直截な手法でわかりやすい。それにZ1の場合、主にボディに関する先進技術のショールームということになったので、それなら屋根なしというテーマは挑戦し甲斐もあるというわけだ。

 ありていにいえば、ボディのほかには、Z1はそれほど“とんがった”車ではない。325i シリーズと同じ2494 cc のシングルカム 6気筒170HP ユニットをそのまま使うことからも、ホットな性格ではないことがわかる。5段マニュアル・ギアボックスのレシオも325i そのまま、サスペンションだってリアこそ横G対応のトー角補正ダブル・ウィッシュボーンだが、フロントはセダンの流れを汲む後傾マクファーソン・ストラットで、全体のセットアップもそれほどスパルタンにはなっていない。前述のように、なによりもボディそのものがテーマなのである。“BMWはこういうボディ作りもでくるんですよ”というボディは前面亜鉛引き鋼板で組み上げたメインストラクチュアに丈夫なRFP製のフロアパネルを結合させたものが基本である。亜鉛メッキといえば、普通は材料としての鋼板をまずメッキして、それから板取りしてプレスして......という順序になるがmZ1の場合はまず形を決めて溶接し、その全体を一気にメッキしてしまうところがユニークだ。これだと亜鉛皮膜が鋼板の継ぎ目にもしっかり食い込み、そうでない場合より25% も捩り剛性が向上するという。FRP製のフロアパネルを受け持つのは、ミュンヘンのMBB社で、ここはかつてのメッサーシュミットの流れを汲む名門である。これにサウペンションを付けてエンジンを積めばとりあえずローリングシャシーは完成、あとは射出成形などいろいろな方法と材料を使いわけた外板を取り付けて形ができあがる。これらアウターパネルはいっさい応力を受けない。

■引き込みドアが愉しさの象徴

 ........などと説明してばかりいるとページがなくなる。さっそうくBMW Z1 と2年ぶりのデ−トと行こう。なんといっても乗り降りがこの車の最大の特徴である。リアフェンダーの肩のところにある鍵孔兼用のボタンを押すと、軽いモーターの唸りとともにドアがするすると下がり、高いサイドシルの“戸袋”にたぐり込まれる。縦方向のスライドドアである。もう一度ボタンを押すとするすると上がって閉まる。サイドウインドウが閉じた状態だったら、ドアの下降とともにガラスそのものもドアの中に引き込まれながらドア全体が下がり、反対に閉じる時にはドアが上がりながらガラスも出てくる。最初にガラスが開いた状態だったら、ドアを開閉してもそのままである。この操作はコクピットの中からは、普通の形のドアハンドルを引くことで行われる。要するに、横から見て上半分がドア、下半分が敷居だから、ヨイショと跨ぐ形で乗り降りするわけで、いかにもスポーツカーだぞという雰囲気の演出はなかなかのものでる。ただし、当然ながら実用性という点ではマイナスで、オープンの状態だったらウインドスクリーンの上縁にあるフロントロールバーに掴まって懸垂しながらストンと尻を落とせばすむが、幌をかけてあったりしたらけっこう悲惨で、体を知恵の輪にしてもぐり込まなければならない。ミニスカートだったら躊躇するところだ。いっぽう、せいぜい80km/hぐらいまでだったら、このドアを開けたまま走れて、腋の下に路面をかい込むような開放感にあふれたドライビングを愉しめる。まあ、同じようにサイドシルを跨いで乗り降りするスーパーセヴンなどにくらべればはるかにましではあるが。わざわざこんなに深いサイドシルにしたのもZ1コンセプトの眼目のひとつで、屋根も鴨居もつながっていなうオープンボディでは、高い剛性を得ようとすればボディの下半分を強固にするしかない。フロアの下面に頑丈なXメンバーを貼りつけるか、トンネルをバックボーンフレームみたいに大型化するか、さもなければサイドシルを深くするのが通例で、それを極端に割り切った形で表現したらZ1式になったわけだ。その結果として、確かに剛性感には富む。舗装の荒れたところなどでは、どこかで (風の音やら何やら聞こえていたので、どこと特定できないが)かすかにキシキシ軋むこともあったが、以前イタリアで乗った時には、悪い舗装路でもそんなことはいっさいなかった。エンジンもサスペンションもそれほどホットに追い込んだ仕様ではないから救われているのかもしれないが。ワインディングロードでエイヤッと振りまわしても、いつでも車全体の一体感は確実に感じられた。

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 もちろん、現代のカブリオレともあろうものが、そう簡単にガタピシするわけはないのであって、このテストに同行した944カブリオレもRX-7カブリオレも、普通に走るかぎり、どこかが弱そうな感触はほとんどない。でもさらに攻め込んで、舗装に皺が寄っているような状態でコーナーに突入したりすると、もともとクローズドボディを前提に作られたものをコンバートした哀しさか、ガタガタガタッと“ヨレる”のが避けられない。RX-7の場合はボディ全体がバタつく感じ、いっぽう944のほうは下半分はガッチリ感が残るのに、ドライバーの胸から上のところでフニャッとなる感じがした。あくまで感じだが、乗り手にとって剛性感は“感”の問題だから、このあたりにZ1の優位性はある。もっとも944もRX-7も普通のドアを持っていて、そういう使い勝手の良さではZ1など遠く及ばない。いや、実用性では一つ思い出した。Z1の引き込み式ドアは出っ張らないので、狭いところでの乗り降りには具合がいいという副産物はある。

■オープンの実感うすいRX-7

 Z1に乗ると、やはりオープンは単純が何よりだと思う。たとえばRX-7カブリオレ、これは非常に出来の良い車だが、極端にいえばオープンエア・モータリングの実感が薄い。額のすぐ前まで極端に迫ってくるウィンドスクリーンと大きなヘッドレストに挟まれて座っていると、サンルーフとまではいわないまでも、せいぜいタルガトップの開放感と大差ないようにさえ感じることがある。そういえばRX-7カブリオレは、完全なオ−プンモ−ドの他にトップ部分だけを外した“ルーフレス”と呼ぶタウンランドー的な姿もある。この大きなヘッドレストにはスピーカーが埋め込まれていて、気に入ったテ−プを大音量でかけながら走ると、目の前の風景が映画みたいに見えて、一瞬だけ現実から遊離できるおもしろさはたしかにあるが、逆に頭のまわりをがっちり守られすぎてしまって、オープンの愉快が少ないのだ。そう、オープンエアの実感とは、実はただ座っていてはわからないのであって、振り向いたときにスバーッ!と何も邪魔ものがない、その“ズバーッ!”にとどめをさす。だから本当はヘッドレストもない一種の危うさがいちばんの魅力になるはずなのだが、今の世の中でそこまでは要求できないから、その他の部分をできるだけ抑えることで、その実感を追求することになる。


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