モ−タ−ファン別冊
SPECIAL CARS APRIL/MAY 1991 BMW SPECIAL
より抜粋させていただきました。

(これを読んだらノーマルZ1のオーナーはRLEがきっと欲しくなります。)


ALPINA Z1 vs PORSCHE Carrera 4 Cabrio

 古典的なスポーツカーの条件といえば、オープンボディに2シーター、もちろんグッドハンドリング、それに美しいスタイリングが加えられれば文句なし、といったところだろうか。現在ではスポーツカーの定義は数多くあるが、この伝統的な定義がいまだ多くの人びとの心を捉えているのも事実である。
 この条件に当てはまるドイツ車といえばBMW Z1とポルシェ911カブリオレが最右翼であることは、誰にも異義はないはずだ。しかも、そのZ1が、ブフローエの魔術師ボ−フェンジ−ペン氏の手になるアルピナのBMW Z1とくれば、この2台は強力なライバルたり得る関係といえよう。価格で見ても、ドイツ現地でいずれも約14万マルクと、まさに悩める選択の2台となるのである。
 そこで我々は、アルピナ・ロードスターを借り出すと共に、ポルシェ911カレラ4カブリオレも持ち出して真っ向から対決させてみるという、なんとも幸せな企画を実行することにした。

アルピナ流の車造りが隅々に及んだBMWオープンスポーツカー

 まずはアルピナのロードスターのステアリングを握る。
 この車はアルピナ社としては80年に発表したB7ターボS以来の限定生産で、66台が世に送り出される。限定となった理由は、ベースになるZ1の供給量が少ないこともあるが、なによりも同社のポリシーである品質管理の徹底が要員となったという。そして、66という台数は、アルピナ社の生産能力では100台というのは多すぎるし、20台や30台では少なすぎるということで、単にその中間をとったにすぎないということであった。
 ノーマル仕様との外観の相違点は、アルピナのアイデンティティーとして欠かせないボディのピンストライプ、8J x 17 インチのアルピナホイール、235/40ZR17サイズのミシュランMXX3といった程度で、この他はまったくBMWオリジナルのままとなっている。いつもの地を這うようなフロントスポイラーや、リアのトランクスポイラーなどのアイテムは装着されておらず、アルピナのギミックだけのパーツは採用しないというポリシーが強固に反映されている。
 エンジンはアルピナのC2-2.7からそのまま移植された、すなわち325iに搭載されていた直列6気筒2.5リッター、いわゆるスモール シックスをベースに、ストロークを標準の75mmから81mmへと延長し、排気量を2.7リッターとしたものである。マーレー製のハイコンプピストンの採用や、エンジンのすべての動的パーツのバランス再調整、カムシャフトの変更、半球形のシリンダーヘッドを中心とした吸気系の改良などが、気の遠くなるような緻密さと時間をかけて行われているのはいつものとおりである。
 これらのチューンの結果、パワーはノーマルの170PSに比べて20%以上アップした210PSで、発生回転数はオリジナルと同一の5800rpmという使い勝手の優れたものとなっている。また最大トルクも27.2kgm/5000rpmを誇る。
 インテリアはまったくといってよいほど変更はなく、アルピナのオリジナルステアリングが目をひく程度である。(Wm註:センターコンソールが革で覆われています。)
 ただし、このロードスターが限定生産であることを強調するために、ホーンボタン、センターコンソール上のシルバープレート、さらにはホイールのセンターキャップにまでシリアルナンバーが刻まれている。さらに各パーツは、それぞれに刻印された66台分のスペアしか用意されておらず、ノーマルのZ1をベースに単にパーツを組むだけでコピー商品を造ることを不可能にしているという念の入れかたである。

無類にスムーズなエンジンと、入念にセッティングされた足まわりの操縦性

 さていよいよ例のSF的なスライドドアを下げ、幅広いスカットルを跨ぐようにして着座する。その時のフィールはまさに服を着るかのようであり、クルマが自分の手足になったような感覚にさえなるところは、このクルマがただのオープンカーではないことを感じさせる。
 イグニッションキーを捻ると、簡単に6気筒SOHCは目覚め、意外と静かに、且つスムーズにアイドリングを始めた。水温計の針が少し動いたところで、ゲトラーク製の5速ギアをローにセレクトし、軽くアクセルを踏み込むと、軽快なエグゾーストノートと共にアルピナ・ロードスターは小気味よいダッシュを開始した。
 アルピナに乗っていつも感心させられるのは、エンジンが無類にスムーズなことであるが、このロードスターの場合ももちろん例外ではなかった。ともかくアクセルのわずかな動きにも繊細に反応すると同時に、まったくストレスなしに、タコメーターの針はメーターのスケールを振り切る勢いで上昇していくのである。しかもトルクカーブはまだにフラットで、無闇に引っ張らなくとも、周囲の交通をやすやすとリードすることができた。
 もちろんこのスモールシックスは、実用エンジンとしては世界でも最高のフィールを持ったひとつであることは疑うべくもない。しかしそれだけに、劇的なトルクの山場がなく、それはドライバーの気分を高揚させるための演出としては、若干の不満が感じられないでもない。あまりにもスムーズなために、などというには贅沢すぐる注文だというのはわかるのだが、古典的なスポーツフィールを好む人にはやや物足りないのも事実といえよう。
 サスペンションのアルピナ哲学によって、いつもの手法である、ビルシュタイン製のアルピナオリジナルダンパーと(Wm註:Wmのクルマにはボーゲが付いています)、入念にセッティングされたスプリングへと変更されている。
 さらに、ひとまわりワイドになったタイヤとオリジナルセッティングのホイールという組み合わせによって、アルピナ・ロードスターの操縦性は素晴らしく楽しいものに仕上がっている。オリジナルのZ1をさらに熟成させたクイックな取りまわし、ほとんどニュートラルといってよいコーナリング特製、まさに自らすすんで峠道を探したくなるほどだ。
 しかし、カタログによると最高速度は230Km/hとなっているが、0〜100Km/hまでの加速所要時間は記されていない。 C2-2.7は7.1秒となっているから、おそらくこのZ1もほぼ互角であると思われる。とはいえ、このクルマの魅力は、最高速度や加速などの絶対的な数値には現れてくるものではない。ソフトトップを下ろした状態でもせいぜい130Km/hくらいで流すのが限度であり、前述したような、ハンドリングを楽しむタイプのスポーツカーであることは明白である。しかもエアコンなどの豪華装備は省かれており、ファーストカーとして常用するのは少しばかりきついに違いない。まさにオープンエアのスポーツドライビングを、純粋に楽しむだけのマシンといえよう。
 もちろんこのクルマを手にする幸せな人たちのガレージには、きっとファーストカーとしてのB10/3.5あたりが納まっているに違いないが。

<後略>

Special thanks to San'Ei Shobo


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